« 2013年3月2日 | トップページ | 2013年3月16日 »

2013年3月9日

2013.03.09

ワイン販売から設計情報転写論へ

先週も含め、IT経営をベースとした取り組み企業に対する評価、表彰
があった。各企業は、自社のリソースと想いの中で、夫々の工夫、改善、
改革を進めている。その努力には、敬意を表したい。

その中で、ワインの商社として、独自のマーケティングアプローチと
基盤作りの実践をしている企業があった。
1.Wine-Link
「Wine-Link」は、ワインの銘柄情報だけでなく、その楽しみ方を紹介する
トピックスや、生産者情報、さらにお気に入りワインを記録できるマイページ
機能など、ワインに関する情報をまとめた次世代型のワイン情報ポータル
サイト。AR(=Augmented Reality、拡張現実)技術を導入したiPhone
アプリを提供している点が面白い。このAR技術とは、現実の環境に対して
デジタルなオブジェクトを合成して提示する技術。
消費者との新しい関係作りを目指して「Wine-Link」はPC向けのサイト
ではなく、スマートフォン向けに特化して製作されている点や、iPhone
アプリにAR技術を導入している点がユニーク。
今までもワインの情報を発信するサイトは少なく、専門的な情報を提供
するものが主。消費者向けワイン情報サイトが少ない原因の1つとして、
特定のワインの情報を調べることが難しいという現状があり、同じ銘柄
であっても毎年のように味が変わるワインでは、銘柄の名前だけで調べた
としても正しい情報が得られるとは言い難かった。
スマートフォン向けアプリを通じて、ワインのラベルや首掛け、プライス
カードに印刷してあるマーカーを読み込むことで、そのワインの情報が
表示されるという仕組み。ワインの特徴や生産者からのメッセージの他、
大人のワインの楽しみ方やツイッター上のクチコミまでがあるので、
消費者にとっては、大変有益な情報になる。
この点で、Wine-Linkは、これまで作り手が提供できなかった新たな情報
を消費者に与えてくれる。さらに、同じ立場である消費者のクチコミも
わかる。
1)作り手の情報=これまでCMやパッケージで提供されていた
2)買い手の情報=これまでSNSやクチコミサイトで提供されていた
二つの情報を売り場で簡単に入手することを可能になる。

一般的な食品やワインも含めた酒類、そしてレストランで提供される
メニューなど、ほとんどの商品情報が消費者に届いていない。食品メーカ
の企業サイトを見てもほとんどの企業は卸や小売などの法人を意識した
ページに思える。レストランのサイトでは、本当のおいしさが伝わって
いないサイトが多い。

このように、商品の情報がなかなか消費者に伝わっていない中で、
Wine-Linkは、作り手・買い手双方の情報を売り場で簡単に伝えている
点で、大変、面白い。

実は、この「作り手・買い手双方の情報を売り場で伝えている」事から
今注目されている藤本教授の「設計情報転写論」が想い浮かんだ。

2.設計情報転写論とは
藤本教授の考えるもの造りのポイントは、「もの」ではなく「設計」で
ある。もの造りの本質は、「ものを造る」ことではなく、設計情報を
「ものに造り込む」ことである。こう考えることにより、もの造りは
工場の生産現場だけで閉じたプロセスではなくなり、むしろ開発・購買
・生産・販売の現場が連携し、本社部門も経営トップも、サプライヤーも
販売店も顧客も巻き込む、一つの開かれたプロセスとなる。

製品、例えば自動車は、設計情報が媒体(もの)に転写された人工物である。
その設計情報を創造するのが開発の仕事、創造された設計情報を媒体(もの)
に転写するのが生産の仕事、転写する媒体を確保するのが購買の仕事、転写
された設計情報を顧客に向けて発信するのが販売の仕事である。
そして、顧客はそうした設計情報を企業から受け取り、いわば設計情報を
消費するのである。

例えば、ある人があるクルマを買って、そのデザイン、燃費、乗り心地に
満足したとしよう。顧客を満足させたこれらの要素は、基本的にはあらかじめ
設計された製品機能あるいは製品構造である。顧客を楽しませるボディ形状
は、将来の消費者の消費体験を常にシミュレーションしつつ、デザイナー
が発想し、モデラーが粘土模型に転写し、車体設計者が詳細に展開し、
オペレータが3次元CADで表現し、金型設計者が金型形状に翻訳し、金型工場
が鋼塊に転写し、プレス工程が厚さ0.8ミリの鋼板に転写する。完成した
クルマは、車体設計情報が鋼板に転写された人工物であるから、それを顧客
に届ける販売の仕事は設計情報の発信に他ならない。これを受信するのは、
顧客その人である。顧客は買ったクルマを使用することで製品の機能・性能
情報を引き出し、それを解釈することで満足を得る。そして、こうした消費
プロセスを観察している商品企画部門は、観察結果をもとに次の設計情報
創造のサイクルに入る。
このように、顧客に始まり顧客に終わる「設計情報の流れ」を管理・改善・
進化させる企業活動全体が「もの造り」に他ならない。従って、開発・生産・
購買・販売は全て、顧客へと向かう「設計情報の流れ」に関与しているわけ
であり、その限りにおいて、一丸となって「開かれたもの造り」を支えている
のである。

この考えは、製造業、サービス業の区別を問わない。
先程の「Wine-Link」サービスとしては、顧客との一体感の上で、
ワインを売るというサービスを実行しているのである。

藤本教授は、企業が顧客へ向けて「設計情報を流すプロセス」に関わるのが
組織能力、顧客へ向かって流れる「設計情報自体の構造」に関わるのが
アーキテクチャであり、これらが「もの造り分析」の二つの柱と考えおり、
欧米との違い、日本のものづくり文化を分析することで、現在の日本の製造業の
低迷を脱する様々な提言をされている。

例えば、
モジュラー製品ほど、理念100%実現が求められる。
インテグラル製品は、現場の事後的調整力、すり合わせ力に依存する度合い
は強まる。現場に期待するのは「原価低減」ではなく、在庫の回転をKPI
とする流れの創造と迅速化(正味加工時間比率の改善)。

良い現場を(日本に)残すにはKPI、KGIの組み換えを行い、本社が、正味
時間比率の向上を支持する指標を掲げる。正味時間比率と似て非なる「能率」
や「利益」や「原価」による現場評価をやめる。
つまり、利益や原価は、設計、生産技術で勝負し、現場は棚卸回転率で勝負
する。損益計画をフォローし、設計情報にフィードバックする。
このときの、必要なデータベースを構築する。

先程の組織能力とアーキテクチャをもう少しまとめると、
設計情報の流れという観点から再整理された「開かれたもの造り」の体系
を構成する二つの柱は、(1)もの造りの組織能力と、(2)製品・工程の
アーキテクチャ(設計思想)である。

(1)もの造りの組織能力とは、顧客へ向かう設計情報の創造・転写・発信
のプロセスを、競合他社よりも常に正確に(高品質で)、効率良く(低コストで)、
迅速に(短いリードタイムで)遂行する組織全体の実力を指す。いわゆる
QCDの同時達成・同時改善を行う能力である。そこでは、開発・購買・生産
・販売それぞれの現場の組織能力が一体となって、緊密に絡み合っている。
淀みない「流れ」をつくることがその要諦である。

(2)アーキテクチャ(基本設計思想)は、顧客へ向かって流れていく設計
情報そのものの構造に関わる。一般に、設計活動の対象となる要素は製品
機能(要求仕様など)、製品構造(部品など)、生産工程(設備・治工具など)
であるが、個々の要素の中身については個々の要素技術・固有技術の領域で
扱うのに対し、そうした要素の「つなぎ方」を論じるのがアーキテクチャ論
である。
具体的には、製品機能要素と製品構造要素のつなぎ方を論じるのが「製品
アーキテクチャ」、製品機能要素と生産工程要素のつなぎ方を論じるのが
「工程アーキテクチャ」である。一般には、自動車のような組立製品では
製品アーキテクチャ、化学品のようなプロセス製品では工程アーキテクチャ
が重要だと言われる。

この実現に向けては、ICTの活用は必須であり、その基盤がないと、机上
の空論にもなりうる。最近ガートナーが「今後の5年間で注目すべきIT
トレンド」の1つに「モノのインターネット化」を言っており、ICTの
広がりは更に大きくなるようである。また、冒頭のワインの販売サービス
でもあるように、「設計情報転写論」で言われている事を先進的なICT
のソリューションで利活用することによって、中小企業でも、更なる拡大
への道があるかも。

« 2013年3月2日 | トップページ | 2013年3月16日 »

最近のトラックバック

2017年11月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ