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2015年2月6日

2015.02.06

伝統工芸を現代に活かす

ここ数年、伝統工芸品、工芸品への理解が高まり、各地で若い職人と
大学などとのコラボやデザイナーの積極参加で伝統工芸の技や素材を
活用した新しい製品造りが盛んになっている。私の近くでも、京都の
工芸のスキルを織物や木工品に適用して、今までにない形でのものの
提供を図っている人々が多くなっている。日本文化の発信として、国
全体としての取り組みが少しづつ具体的な形になって来たのであろう。
また、民間でも、企業ベースで、地域の工芸技術を活用した様々な
製品が創出されている。これを更に大きなうねりとすることが柳さんたちの
想いを結実することとなろう。それは、また、最近忘れ去れつつある
日本文化の見直しとその原点の認識を更に、多くの人に理解してもらい、
より精細な文化創造物を生み出すことの推進力にもなる。

しかし、その担い手となる伝統工芸士と呼ばれる人の総数は、2004年の
4618人から2013年は、4280人へと減っている。生活が苦しいことが
主因のようであるが、自分の想いと生活を両立させるのは、中々に
難しいようである。その生産額も、2012年には約1040億円で、
1983年の5分の1である。単なる伝統工芸品そのものを復活させる
のでは限界があり、如何に現代に生きる人々へその技術を活かした
製品を創ることが問われている。その点ではいまだ、顧客ニーズを
キチンと意識したアプローチが出来ているか、疑問は残る。
ここでは、それを実際のビジネスとして先駆的な仕事をしている2人から
課題解決のヒントが得られるであろうし、伝統工芸品を愛し、それを
如何に売って行くかに長けた人の存在が必要であることがわかるであろう。

1.中川政七商店の活動
中川政七商店は、奈良で300年続く麻織物「奈良晒(さらし)」のメーカーだが、
今や全国に33店舗を持ち、急成長している企業。自社商品を製造・販売するだけ
でなく、全国の伝統工芸品を自社の店舗で売り、瀕死のものづくり企業を再生
させている。日本人の生活の中で長く愛用されて来た「伝統工芸品」は数多く
あるが、今は生き残りが極めて厳しい時代である。中川は、「その良さを自分たちで
伝えること」にこだわり、さらには経営不振にあえぐ企業に出向き、経営指南
までしている。「日本の工芸を元気にする!」を自身のコンセプトとして、
伝統工芸品を中心とした新たな中小ものづくりを支援している。

「日本の工芸を元気にする!」は、いわば、中川政七商店の「ものさし」である。
これが、中川社長の経営者としての判断基準であり、従業員一人ひとりの業務や
行動の基準であり、社内外の関係者の共通意識となっている。

彼は、「日本の工芸を元気にする!」というビジョンを掲げ、これを積極的に表現し、
発信し、自分自身もこの言葉にコミットして、このビジョンにつながることを
一つひとつ積み上げてきた。ただ、「変えるべきこと」と「変えてはならないこと」
は明確にしている。
中川政七商店は、わずか10年足らずの間に、SPA業態の確立、自社ブランドの拡大、
業界特化型コンサルティング、流通サポートと、自らのフィールドをどんどん拡張
させ、目覚ましい変化を遂げてきた。しかし、その一方で、創業以来扱い続けて
きた麻織物や、奈良の特産品である蚊帳生地を、主力商品として大切にしている。

その代表的な例が、「花ふきん」。年々需要が減少傾向にあった蚊帳生地を、現代
の暮らしに合わせ、布巾に仕立てたこの商品は、1995年7月の発売以来ロング
セラーとなり、2008年度「グッドデザイン金賞」を受賞している。
シンプルでオーソドックスな一色ものから、ポップなチェック柄、「奈良ふきん」など
のご当地ふきんなど、より多様化するライフスタイルや好みに合わせ、バラエティはさ
らに豊かになっており、単に旧来の伝統品を売るのではなく、現代の顧客志向に
合わせて新しい姿で、市場に提供している。

また、自社だけではなく、創業以来拠点としてきた奈良で、「日本市プロジェクト」
という新しい取り組みを本格的に進めている。
土産物店と地元の小規模工芸メーカーを元気にすることがその趣旨である「日本市
プロジェクト」では、日本各地には、数々の素晴らしい伝統工芸があるはずなのに、
観光地の土産物店に並ぶお土産物は、その地域ならではのオリジナリティにも、
商品のバラエティにも乏しいその現状打破を目指している。
中川社長は、
「食の分野では「地産地消」が当たり前になりつつあるのに、工芸では、まったく
ありません。そこで、中川政七商店が、土産もの店と地元の小規模工芸メーカー
との間に入ることによって、小さな需要と供給の循環を生み出す。将来的には、
持続可能な事業を地域レベルで自立的に運営できるような状態にまでしたいと
考えています。
具体的には、中川政七商店が、小規模工芸メーカーに対して、商品企画とデザインを提
供し、さらに製造ロットの買取を保証。一方で、土産もの店には、消費者のニーズや嗜
好に合った地元の工芸品をタイムリーに供給し、店舗運営のアドバイスも行います。」

まずは、中川政七商店の地元・奈良に「日本市 奈良三条店」をオープンし、「日本市
プロジェクト」を始めた。
奈良の特産品・蚊帳生地を使ったベストセラー商品の「花ふきん」や、靴下の国内シェ
ア50%以上を占める奈良県から生まれた靴下ブランド「2&9」、奈良吉野の「嘉兵衛番
茶」や「堀内農園」のドライフルーツなど、店内で扱う商品の6、7割は、奈良県産
である。美術工芸品なども扱い、奈良のものづくりが総覧できる「ショーケース」
のような空間を作り上げるのが目標でもある。
ものを作る上においても、たとえば、「PAGOTA」というバッグの柄は、奈良時代に
法隆寺や東大寺などに奉納された100万個の小さな木の小塔「百万塔陀羅尼」が
モチーフになっている。
そんなふうに、バッグの柄ひとつひとつにも、意味があり、想いが込められている。
最後に中川社長の言葉をジックリ味わうのが、これからの伝統工芸品ビジネスの
1つの方向であろう。
「伝統工芸って、そのまま放っておくと受け継ぐ人がいなくなって、美術品になってし
まうんですよ。でも、それを手にとってもらえるように新しくすることで、つくる職人
さんの生活も、それを使うお客様の生活も、潤うんです。お客様との会話を楽しみなが
ら、そういう”橋渡し”をするのが、わたしたちの役割だと思っています。」

2.矢島里佳(やじま・りか)和える代表取締役の場合
日本各地には、数百年あるいは千年を超える歴史を有する「伝統産業」が存在する。
その中には、“日本文化の精髄”として世界的な評価を得ているものがある一方、
大多数は衰亡の危機に瀕し、しかもそのことは必ずしも広く知られていない。
こうした状況を憂慮し、「このまま先人の知恵を失って良いのか?」と立ち上がった女
性起業家がいる。株式会社和える代表取締役の矢島里佳さん(26)である。

彼女は創業翌年の2012年に、“0から6歳の伝統ブランドaeru”を創出。30~40代の、子
どもを持つ親たちや、“孫に贈り物をしたい”祖父母を主要ターゲット層に設定し、日
本の伝統技術を用いた乳幼児向け日用品を企画・開発・販売している。

「伝統産業×子ども」という意表を衝く発想で生み出された商品群は、発売されるやセ
ンセーションを巻き起こし、たとえば「愛媛県から砥部焼のこぼしにくい器」などは、
取材時点(10月10日)ですでに来年の2月まで待たないと入手できないと聞く。
「(工場生産ではなく)すべて職人さんの手仕事なので、大量生産ができません。その
ため、お客様にはご不便をおかけしており申し訳ございません。それでも、手仕事をご
理解頂き、お待ち頂けることに大変感謝しております」
現在、販売チャネルは、ネット通販、aeru meguro(aeru目黒直営店)、百貨店(日本
橋三越本店、伊勢丹新宿店、西宮阪急、山形屋、佐世保玉屋)、そして各種
催事だという。
先人の知恵と現代の感性を「和える」ことが基本コンセプトである。
「伝統は革新によってこそ生きる。革新なき伝統は伝承に過ぎない」と言われるが、
衰亡に瀕している日本の多くの伝統産業もまた、時代の変化に対応した適切な
イノベーションを行なってこなかったために、今のような危機的な状況を招いたと
言ってよい。矢島さんは言う。
「『~年の伝統を誇る××焼』と言っても、多くの場合、今の若い人は知りません。
『昔からある』というだけの“産地ブランディング”にはもう無理があるのです。
でも、ずっとその土地にいる方々には、なかなかそのことがわからない。
だからこそ、外部の視点が必要だと思うのです」

「“伝統”という切り口では今の若い人はあまり強い興味を持ちませんが、
“子ども”という切り口であれば、興味を持つ方が増えるのではないかと私は考えまし
た」
「幼少期に体験したことは、人生を通じて、記憶として残るものです。ですから、日本
の子どもたちが、0~6歳の時期に伝統産業に触れることで、いずれ、また彼ら彼女らが
伝統産業の商品を自ら手にする時が来ると私は思いますし、それが、長い目で見た時に
、日本の伝統産業を発展させる最も有力な方法だと考えます」

彼女は、伝統産業なら何でも良いと考えている訳ではない。商品開発に当たって矢島
さんは、「なぜ、その技術を使わないといけないのか?」という点を徹底して
追求する。
たとえば、彼女が「日本に生まれてきてくれてありがとう」という想いをこめたという
「徳島県から 本藍染の出産祝いセット」(産着・フェイスタオル・靴下)。
この商品は、オーガニックコットンに徳島伝統の本藍染を施しているが、本藍染には、
紫外線カットや保湿などの効果があって、生れたばかりの赤ちゃんの肌を優しく
守るのだという。

矢島さんの職人のつながりは、日本全国で300人以上を擁するが、商品開発においては
、このような理に適った伝統技術選びを行っている。
だからこそ、現代の顧客からも支持される。
すべては職人の「手仕事」で作られる
「近年、よくコラボレーションという表現が用いられますが、これには2つの意味があ
ると思います。それは“混ぜる”と“和える”です。

“和える”は、『双方の本質を引き出し合うことでより良いものを生み出す』という
点で、“混ぜる”とは異なります。私たちは、先人の知恵(伝統技術)と現代の
感性を“和える”ことを目指しています」

「あらゆる存在がやがて滅び、循環してゆくのが自然の摂理です。企業経営もその中に
包摂されており、私たちはそうした摂理に適った行動を取ることが大切だと考えます。
だから、誰かを不幸せにし、良心の呵責に苦しむような事業をしてはいけない。そうい
う意味で、昨今流行のWIN-WINという言葉は、あまり馴染みません。なぜなら、あくま
でも自分を中心とした発想のように感じられ、当事者同士が良ければ、他者はどうなっ
てもよいというニュアンスが感じられるからです。似たような言葉で昔から日本に伝わ
る『三方よし』が私には一番しっくりきます。
さらに言えば、“お客様は神様です”という価値観にも違和感があります。たとえば、
顧客が低価格を望んでいるからという理由で、商品本来の適正価格をつけることができ
なくなり、結果として、伝統産業であれば、職人さんたちの“匠の技”を安く買い叩く
ことにつながります。そして、結局、そうした姿勢が伝統産業の衰亡を招いてきたので
す」
彼女の哲学は、この連載でもたびたび取り上げてきた「主客一如」である。
「“主体”としての自己と、“客体”としての、自己を取り巻く森羅万象は、不可分一
体をなしている。自分という存在は、悠久の歴史や大自然の一部であり、その中で“生
かされている”。商いとは、そうした森羅万象に対して“感謝”を捧げる営みである」
と考える。ここで言う森羅万象とは、顧客・従業員・取引先・地域社会・自然環境を包
含する。

「起業前に、ある職人さんとの会話で、“ものづくりを続けることは、ゴミを作ること
になるのではないか? ものを作らなければ自然はそのままなのに”というお話が出ま
した。でも、どうせ誰かがものを作るのだから、だったら、自分がゴミにならないもの
を作ろうと決心しました」
森羅万象に対して“感謝”を捧げることを尊んでいるのに、生きるために生産活動を行
おうとすると、他の動植物の命を奪わざるを得ないジレンマに直面する。
それに対し、古来、日本人は、「彼らの“死”を意義あるものにするにはどうしたらよ
いか」と考えてきた。そこから導き出されたのが、「すべてを大事に使い切る」ことを
前提としつつ、その結果として、「その恩恵に浴する全ての人々に喜んでもらう」とい
う考え方であった。「そこまですれば、彼らも“以って瞑すべし”であろう」と思った
訳である。

「私たちは、“消耗品”ではなく、代々、受け継がれてゆくべき物を志向しています。
だから、リペアサービスもさせて頂いています。これからの日本は、生活もシンプルに
なり、本当に良いものを長く大事に使ってゆく時代になると思います」
その言葉を裏付けるように、同社の商品は、乳幼児向けだからと言って子どもっぽい
デザインは採用していない。大人になってからも深い満足感をもって使え、
世代を超え、時代の流行を超えて使える普遍的な美と機能性を備えている。
製品生産の直接の担い手となってもらう30~40代の職人さんには、次のような共通項
があると矢島さんは言う。
すなわち、(1)ウソがつけない正直者 (2)技術に自信があるからこそ謙虚
(3)先人の知恵を経験的に会得している(4)オーダー主の想いを汲みながら、
それを超えたものを作る(5)掘り下げていくと、良い意味でこだわりが強く
変人という5つである。

「開発のコンセンプトは、高級感を強め過ぎないこと。要するに、超かっこ
いいデザインではなく、顧客の使用シーンに最もふさわしいものを作るという
ことです。
「本当に子どもたちに贈りたい日本の物」=「和えるにとっての“ホンモノ”」
と定義する矢島さん。

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