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2016年8月5日

2016.08.05

生活に垣間見える「鉄と信仰」

現在は意識もされない鉄。しかし、古代では、農業の拡大や武具としての勢力拡大には
必須の存在であり、さらにはその神秘的な成り立ちから信仰とのかかわりが深かった。
鉄の持つ力と火を仲介とした生活へのかかわりからこれを信仰の対象とすることが
各地で多く見られる。

1.「鉄の生活史」より
窪田蔵郎氏は、この本の冒頭に言っている。
古代における生産活動は宗教と切っても切り離せない関係にあった。物の製造は
生産要素の1つ1つを神の行為とし、その超自然的な力によって生産を順調にし、
その結果生まれ出てきた製品にも神格を認める、という考え方に支えられていた。
鉄の生産も同じであって、まず鉄を作る火が崇拝の対象となった。火は食物を
調理し、人間に暖を与え、動物の危害を防いでくれるが、その反面、雷火、噴火、
火災をもたらす世にも恐ろしいものであった。だから、火はとうといものというより
魔物であった。その火の中から鉄が生まれる。そこで災いを転じて福とすべく、
この荒ぶる火の魔火の精霊をなだめて、少しでも多くの鉄がとれるようにと火神崇拝
の思想が芽生え、その中から製鉄神崇拝の思想が独立していった。
これが荒神の始まりである。さらに、中国からの陰陽5行説の影響もあり、原始宗教
の自然物崇拝や偶像崇拝が絡み合い、鉄山独特の信仰形態が出来上がっていった。

こうして古代の拝火教要素を持つ火の信仰の発達した荒神、つまり竈神に5行思想の
産物である金神が結び付き、顔が3面、手が6本の金山荒神が鉄山の守護神として
できあがった。この荒神に大年神の子である出雲系の奥津彦神、奥津姫神、火産日神
の3人をあてたのはずっと後のことである。「仮名暦略注」によれば、庚申も金神
の転化したものという。
東北へ行くと醜面を竈神にささげる習俗があり、タタラの天秤吹子の上部にも
泥面を作る風習があるが、これらは偶像化の名残りであろう。そして、この迷信は
山岳宗教である修験道の要素が加わり、さらに仏教、特に真言宗と触れ合っていった。
修験道自身、鉱山師の集団であった要素が強い。

2.神社と鉄
全国の神社の祭神等からそれを少し見ていきたい。
以下のような考えをまとめている方もいる。
1)稲・・稲妻・・雷神・・餅・・
武甕槌大神タケミカヅチ(宮城・塩釜神社)
賀茂別雷命(京都・上賀茂神社・葛城を本拠にした渡来人で製鉄技術を
伝えた秦氏の氏神)
建御雷神(塩釜神社)
2)稲・・鋳成り(いなり)・・稲荷・・
宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)豊宇気毘売(とようけびめ))
御饌津神(みけつのかみ)・・三尻神・・三狐神・・伏見稲荷
3)蛇・・龍・雷・虹・菖蒲の葉・刀―
建御名方神タケミナカタノカミ(大国主の子)・・諏訪大社
蛇・・三輪山・・大物主大神(おおものぬしのおおかみ)・大巳貴神
(おおなむちのかみ)・・大神(おおみわ)神社
4)金山彦・・イザナミの子・・南宮大社(岐阜)・・黄金山神社(宮城・金崋山)
5)金屋子神(かなやこのかみ)=天目一箇神(あめのまひとつのかみ)
・・金屋子神社(島根)
6)一つ目小僧・・片目伝説・・一目連(いちもくれん)・・
天目一箇神(あめのまひとつのかみ)・・天津麻羅(あまつまら)・・
多度大社(三重県桑名)・・天目一神社(兵庫県西脇)
風の神・・一目連(いちもくれん)・・多度大社・・龍田神社(奈良県生駒にあり、
法隆寺の鎮守)
7)風の神・・蚩尤(しゆう)(武器の神・風を支配)
・・兵主神(ひょうずのかみ)・・穴師坐兵主(あなにいますひょうず)神社(奈良)
・・伊太祁曽(いたきそ)神社(和歌山)・・五十猛命(いそたけるのみこと)(木の神)
8)天日槍(あめのひぼこ)・・新羅の王家の者と伝えられる・・韓鍛冶集団の渡来・・
出石(いずし)神社(兵庫県豊岡・但馬国一之宮)
9)火・・たたら・・火之迦大神(ひのかぐつちのおおかみ)・・秋葉神社
(静岡県浜松)愛宕神社(京都右京区)
10)百足:三上山(天目一箇神)・赤城山(大巳貴神)・信貴山(毘沙門天)
・二荒山(大巳貴神)
11)東南風・・イナサー東南風は黒金をも通す(鹿島)・・武甕槌大神
タケミカヅチノカミ(物部の神)・・鹿島神宮
経津主(ふつぬし)・・星神・・鉱山は星が育成すると考えた・・香取神宮(千葉)鹿島
神宮(茨城)春日大社(奈良)塩釜神社(宮城)
12)山の神・・大山祇命(おおやまつみのみこと)・・大山祇神社(愛媛)
三島大社(静岡)
大山阿夫利神社(神奈川)寒川神社(神奈川・古代の祭神が大山祇といわれている)
13)湯・・湯立神事・・大湯坐―唖(ホムツワケ火持別で、火中生誕)・・白鳥が鳴
いたら唖が治った・・天湯河板挙(神(あめのゆかわたなのかみ)(白鳥を献じた人)
天湯河田神社(鳥取)・・金屋子神の乗った白鷺―客神(まろうど)・・白鳥・・餅
・・矢・・矢にまつわる神事(弓矢は釣針と同一・幸福をもたらし、霊力がある)
14)朝日・・日吉・・日野・・猿・・日光二荒山・・俵藤太・・三上山・・百足山・
・炭焼藤太・・淘汰―金、砂鉄を水で淘る(ゆる)
15)木地師・・惟喬親王・・小野・・小野氏・・小野氏の流れの柿本人麻呂・・鍛冶
・・米餠搗大使命(たかねつきおおおみのみこと)小野神社製鉄地に多くある神社
16)お歯黒・・鉄漿(かね)・・鉄・・羽黒山神社・・鉄を多く含むハグロ石・・鉄鉱
泉・・修験道・・出羽三山・・湯殿山神社(大巳貴神)

色々な言い伝えがあるが、例えば、
稲荷の起源は鉄を作る民衆独特の信仰対象が発展したものと言う人もいる。
古来から東南風のことをイナサと呼び、これが転化してイナセとも呼ばれているが、
これが稲荷に変化氏のでは、ともいわれる。例えば、南宮大社をはじめ
静鉄関係の神社建築には東南向きが多く、また古い鉄山のことばに
「東名風は黒金をもとおす」という言い伝えがあって、野たたらの遺跡も
山際の東南斜面に多い。
江戸年中行事には「十月八日吹子祭り、此の日鍛冶、鋳物師、白銀細工、
すべて吹革を扱う職人、稲荷の神をまつる。俗にほたけという。
ほたけは火焼也」とあって、稲荷信仰に従来言われているような農業や
商業の神とは違った一面があることを説いている。そして五行説や鉄治金
と強く結びつくと、出雲の製鉄神金屋子神となって現れる。

さらには、
「鉄山必要記事」によると、製鉄技術を伝えた神は金山毘古命かなやまひこのみこと
金山毘売命かなやまひめのきことの二柱の神であって、播磨国志相郡岩鍋
の地で、鍋釜などを製造する鉄器製造の技術を伝授し、さらに「吾は西方を
主る神なれば西方に赴かば良き宮居あらん」と白鷺に乗って、天空を飛翔し、
出雲国能儀郡比田村黒田の奥にあった桂の木の枝に天下り、ここで、「吾は
金屋子神なり、今よりここに宮居し、タタラを立て、鉄吹術を始むべし」と
宣せられた。そのとき多くの犬を連れて狩りに来ていた現金屋子神社神職
安部氏の先祖安部正重に、砂鉄収集から製鉄法までの一貫した製鉄技術
を伝授し、土地の豪族朝日長者の資力を背景として操業せしめたと言われている。
ただ、注意しなければならないのは、金屋子神が白鷺に乗って飛来したという
形になっているが、これは明らかに製鉄民俗の漂白を物語っていること、もう一つは
この神社が長い年月はたしてきた中国地方の鉄山に対する冶金技術指導の
功績である。

3.諏訪大社の歴史から思う
諏訪大社にまつわる話も面白い。
祭神は建(たけ)御名方(みなかた)命(のかみ)(南方刀美命)で、出雲の国譲りで納得で
きず諏訪に逃げてきた神である。
土着の洩(もり)矢(や)神(しん)を制し祭神となった。洩矢神は鉄輪を使い、建御名方命
は藤の枝を使って戦った。
藤は砂鉄を取り出す鉄穴流しで使うザルで、この話は製鉄技術の対決だったという。
御柱の起源をたどると、
諏訪地域は縄文文化がかなり栄えたといわれ、特に森と諏訪湖の水に恵まれた
この地域は農耕の神として崇めるのに適した場所でもあった。
また、黒曜石が多く採れ、それが矢じりや農耕具として様々に使われたため、
大きな勢力を持つことになる。
縄文時代の1大勢力であったのだろう。それもあるのか紀元前10世紀に渡来した
水田稲作の波はここでは受け入れられず、弥生時代へは各地の色々な事情が
あったのであろう。ここでは米よりも森の恵みで生活したのだ。
土着の農耕の神として、御左口神みしゃぐらという名で、崇められ、その土偶も
発掘されている。だが、古事記のある通り、出雲の勢力争いに敗れたタケミナカタ
の神がこの地に来ることで大きく変わった。
最後はタケミナカタが勝利をおさめ、今は諏訪大明神と
して祭祀されている。しかし、ミシャグチも漏神もれやのかみとしてそのまま
残り、その名残が御柱の起源とされている。諏訪大社が御柱を受け入れることは
山の神を里の神が受け入れることになる。このミシャグチの末裔が守矢家として
代々子の御柱の祭事を取り仕切ってきた。守矢は洩神からきているのであろう。
各地の勢力争いとそれに使われた鉄器による征服が読み取れるのが面白い。


神話や伝承や地域に残されている言い伝えを検証するのは面白い。
これまで、この分野はほとんど研究されてこなかったという。特に戦後は架空の話し
としてすっかり捨て去られてきた。しかし、日本人はもともと文字を持たずに古くから
口伝えによって物事を伝えてきたので、神話や伝承にこそ史実が含まれている可能性が
ある。「金屋子神話」や古事記などに記述されている伝承は大いに参考になるようであり、
「鉄の道」なるものも見えてくるのでは、それは「塩の道」以上に生活から社会体制
にまで深くかかわってくるようだ。

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