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2016.10.07

職人への想い

「職人」という言葉は元々、手先の技術でモノ作りをしている人達のことであり、
大工から伝統工芸の職人、さらには、精密機器メーカーの製造現場で活躍する人
も入るのだろう。緻密な作業を妥協せず、辛抱強くやり遂げる人を指すことが多い。
ここでは、伝統工芸を中心とした職人の話としたい。

司馬遼太郎は、この国のかたちの39章でも言っている。
「職人。じつにひびがいい。そういう語感は、じつは日本文化そのものに
根ざしているように思われるのである。、、、、、
室町末期から桃山期にかけて、茶道が隆盛を極めた。とくに利休が出るに
およんで、茶の美学だけでなく、茶道具についての好みが頂点に達した。
彼らは絵画など純粋美術を好むだけでなく、無名の職人が作った道具という
工芸に、目の覚めるような美を見出したのである。、、、、、、
多くの職人たちは、そういう無償の名誉を生活の目標としてきた。
「職人を尊ぶ国」
と、日本痛のフランク・ギブニー氏がいったが、日本社会の原型的
な特徴といっていい」。

わたし自身もメーカーにいたわけで、旋盤やその他の機械を巧みに操り
そこから生まれ出てくる製品のすばらしさに感動したこともある。
だが、人肌に近い工芸品は、それ以上の感動を与えてくれる。それは「手仕事」
の素晴らしさが目の前で行われているという思いがあるのだからだろう。
京都でも、そのような伝統工芸の職人グループに関わったこともあった。
だが、そこで感じたのは、採算性やビジネスモデルを無視した孤高の
仕事ぶりだった。それが彼らを消滅の危機へと向かわせているのも事実だった。
しかし、30年ほど前に書かれた柳宗悦の「手仕事の日本」は違う視点も
見させてくれた。

以下に、「手仕事の日本」からの記述を示す。
今でも、充分考えさせられる内容であることが分かると思う。そして、
我々が如何に、自然との協奏の中にいる事を、強く感じさせる。さらには、
その担い手が職人たちであることもあらためて思い出させてくれる。

「あなた方はとくと考えられたことがあるでしょうか、今も日本が素晴らしい
手仕事の国であるという事を。
西洋では、機械の働きがあまりにも盛んで、手仕事の方は衰えてしまいました。
しかし、それに片寄りすぎては色々の害が現われます。それで各国とも手の技を
盛り返そうと努めております。なぜ機械仕事と供に手仕事が必要なので
ありましょうか。機械に依らなければ出来ない品物があると供に、機械では、
生まれないものが数々あるわけでありす。全てを機械に任せてしまうと、第一に
国民的な特色あるものが乏しくなってきます。機械は世界のものを共通に
してしまう傾きがあります。それに残念なことに、機械は兎も角利益のために
用いられるので、出来る品物が粗末になり勝ちであります。それに人間が
機械に使われてしまうためか、働く人からとかく悦びを奪ってしまいます。
こういうことが禍して、機械製品には良いものが少なくなって来ました。
(現在の高度に精密加工できる工作機械と熟練の技では、この指摘は、必ずしも
正しくはない。しかし、この文意にもあるが、昨今のグローバリぜーションの
拡大で、「国民的な特色が乏しくなる」と言う点を真摯に受け取ると、
日本文化をキチンと承継し、高めていくにはこの指摘は重要である)

しかし、残念なことに日本では、かえってそういう手の技が大切なものだと言う
反省が行き渡っていません。それどころか、手仕事などは時代に取り残された
ものだという考えが強まってきました。そのため多くの多くは投げやりに
してあります。このままですと手仕事は段々衰えて、機械生産のみ盛んに
なる時が来るでしょう。しかし、私どもは西洋でなした過失を繰り返したくは
ありません。日本の固有の美しさを守るために手仕事の歴史を更に育てる
べきだと思います。
今日眺めようというのは、他でもありません。北から中央、さては西や南に
かけて、この日本がいまどんな固有の品物を作ったり用いたりしているかという
ことであります。これは何より地理と深い関係を持ちます。気候風土と離れて
しなものは決して生まれてはこないからです。どの地方にどんなものが
あるかという事を考えると、地図がまた新しい意味を現してきます。、、、、

こんなにも様々な気候や風土を持つ国でありますから、植物だとて鳥獣だとて
驚くほどの種類に恵まれています。人間の生活とても様々な変化を示し、
各地の風俗や行事を見ますと、所に応じてどんなに異なるかが見られます。
用いる言葉とて、夫々に特色を示しております。これらのことはやがて各地で
作られる品物が、種類において形において色において、様々な変化を示す
事をかたるでありましょう。いわば、地方色に彩られていないものは
ありません。少なくとも日本の本来のものは、それぞれに固有の姿を持って
生まれました。

さてこういうような様々な品物が出来る原因を考えて見ますと、2つの大きな
基礎があることに気付かれます。一つは自然であり、一つは歴史であります。
自然と言うのは、神が仕組む天与のもであり、歴史と言うのは人間が開発した
努力の跡であります。どんなものも自然と人間との交わりから生み出されていきます。
中でも、自然こそは全ての物の基礎であるといわねばなりません。その力は
限りなく大きく終わりなく深いものなのを感じます。昔から自然を崇拝する
宗教が絶えないのは無理もありません。日rんを仰ぐ信仰や山岳を敬う信心は
人間の抱く必然な感情でありました。、、、、、、

前にも述べました通り、寒暖の2つを共に育つこの国は、風土に従って多種多様な
資材に恵まれています。例を植物にとるといたしましょう。柔らかい桐や杉を
始めとして、松や桜やさては、堅い欅、栗、楢。黄色い桑や黒い黒柿、節のある
楓や柾目の檜、それぞれに異なった性質を示してわれわれの用途を待っています。
この恵まれた事情が日本人の木材に対する好みを発達させました。柾目だとか
木目だとか、好みは細かく分かれます。こんなにも木の味に心を寄せる国民は
他にないでしょう。しかしそれは全て日本の地理からくる恩恵なのです。
私たちは日本の文化の大きな基礎が、日本の自然である事をみました。
何者もこの自然を離れて存在することが出来ません」。

あらためて考えるべきことが多様に織り込まれているのではないだろうか。

そして、その体現者である職人の言葉には、含蓄ある、考えさせられる言葉も多い。
永六輔の「職人」という本にも、そのような言葉が散見される。
本にある「職人語録」の内からは、

「ウチナーの人間は、その日が楽しければいいの。明日はもっと楽しくしようとは
思わないのさ。だからヤマトの仕事は合わないの。余計に儲けなくたっていいんだ。
向上心がないのとはちがうのさ。欲がないだけのことさ。」
(沖縄でゆっくりと仕事をする、ある大工さんの言葉。)
「人間、ヒマになると悪口を言うようになります。悪口を言わない程度の忙しさは
大事です。」
「職業に貴賤はないと思うけど、生き方には貴賤がありますねェ。」
「人間、<出世したか><しないか>ではありません。<いやしいか><いやしくな
いか>ですね。」
「残らない職人の仕事ってものもあるんですよ。えェ、私の仕事は一つも残って
ません。着物のしみ抜きをやってます。着物のしみをきれいに抜いて、仕事の跡
が残らないようにしなきゃ、私の仕事になりません。」・・・
政治家等が自分の名・業績を残す為に、名声を得る為に、あえて無駄な大事業を
起こしたり自分の銅像を建てる事とは正反対に、陰徳を行なう様に名を出さず
密かに善い仕事を行なっている職人の言葉。

威勢の良い、粋な姿・言葉を表現する職人たち。自分の名を売ろうとせず、
目立とうとせず謙虚に、小さな町工場や工房、商店等で働き「清貧」を表す職人たち。
利益・儲けよりも、誇り・意地・遣り甲斐を優先し大事にする職人たち。
目利きを持ち、物事の真偽や人の才能や能力を見分けて育てる力を持つ職人たち。
こういう人たちが少なくなっているのが残念だ。

しかし、最近は、伝統工芸品、工芸品への理解が高まり、各地で若い職人と
大学などとのコラボやデザイナーの積極参加で伝統工芸の技や素材を
活用した新しい製品造りが盛んになっている。私の近くでも、京都の
工芸のスキルを織物や木工品に適用して、今までにない形でのものの
提供を図っている人々が多くなっている。日本文化の発信として、国
全体としての取り組みが少しづつ具体的な形になって来たのであろう。
また、民間でも、企業ベースで、地域の工芸技術を活用した様々な
製品が創出されている。これを更に大きなうねりとすることが柳さんたちの
想いを結実することとなろう。それは、また、最近忘れ去れつつある
日本文化の見直しとその原点の認識を更に、多くの人に理解してもらい、
より精細な文化創造物を生み出すことの推進力にもなる。

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