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2017.02.24

「老い」自身への意味その4

それでは「老い」とはマイナスの面だけなのであろうか。
日本では、65歳以上が3000万人以上いる訳だから、それではなんとも寂しい話だ。
例えば、徒然草では、その172段に、
「老いぬる人は、精神おとろえ、淡く疎(おろそ)かにして、感じ動く所なし。心おのづ
から静かなれば、無益(むやく)のわざをなさず、身を助けて愁(うれえ)なく、人の
煩ひなからん事を思ふ。老いて智の若き時にまされる事、若くして、かたちの老いたる
にまされるが如し。
口語訳では、
老人は、精神が衰え、淡泊でおおざっぱで、心が動く所が無い。心は自然と静かである
ので、無益なことをしない。わが身を安全に保って心配事はなく、人の迷惑にならない
事を思う。老いて智慧の若者に勝っているのは、若者が容貌において老人に勝っている
のと同じだ」と言っている。
「かたち」のまさった若さよりも、「智」にまさった老いに価値を見出しているのだ。
もっとも「キレる老人」は違うようだが。
智慧を活かすことは「老い」を重ねることでさらに増す、それは現代でもいえる。
それを実践している人もいるが、さらに個々人の想いが高まってほしいものだ。

最後に、私は正法眼蔵の「梅花の巻」が好きだ。この道の専門家の解釈は別にして、
わたし的には、老節の素晴らしさを言っているように思えるからだ。
その冒頭の一節では、
「仲冬の第一句を示す。
瑳ささたり牙牙たり老梅樹、
忽ち開花す一花両花
三四五花無数花。
清誇るべからず、香誇るべからず。
散じては春の容を作なして草木を吹く、
なつ僧個々頂門禿かぶろなり。
まくさちに変怪する狂風暴雨、乃至大地に交みちみてる雪漫々たり。
老梅樹、はなはだ無端なり、寒凍摩もさとして鼻孔酢し。

老梅樹は角立ち屈曲し、
一花二花と花を開く、
さらに三花四花五花と、いや無数の花を開く。
その清らかさを誇ることなく、
その香りを誇ることもない。
繚乱とした老梅樹の姿は、
春の息吹を草木に吹きかけ、
禅僧たちの禿げ頭にも春風をそよがせる。
突として春風はにわかに狂風暴雨と変わり、
大地に滔々と降って雪漫々となる。
老梅樹の活動は、まことに思いがけないものだ、
凍った鼻に清らかな香りが甘酸っぱい」と言っている。

冬の風雪に耐え、やがて春の雪の中に超然と花を咲かせ、その存在を誇る
老樹の梅の木は「老い」の強さを示していると思っている。
このような「老い」を迎えられれば、と思う昨今だ。
もっとも、90歳まで絵師として「体の老い、心の老い」いずれも感じえない
ほどのその姿には、到底なりえないとも思っているが。
松尾芭蕉、宗祇など他に明確な人生の目標、目的を持っている人は「体の老い」
よりも「心の老い」への抵抗が優っていたのであろう。

ふと、4年ほど前に郡上八幡で見た光景が思い起こされる。
「石畳が先まで続き、白壁の門の中に消えている。
三面造りの石の溝を細い水縞が走り、私の足元を抜けるように
今来た道への流れすぎていく。
斑に雨跡が残る石畳が紅き夕陽を照り返し出格子と黒板塀の家々を
薄赤く染めていた。その前では、縁台に腰かけた老人が呆けた顔を
天に向け何かを口ずさんでいる。黄色いシャツは伸び切ったまま薄茶色
のズボンを隠すかのように腰下へと垂れている。
無精ひげが幾筋もの皺を隠すかのように黒と灰色が混じり合い伸び切っている。
その横を白がまぶしいシャツと折り目の目立つズボンを小気味よいテンポで
老人が1人、まっすぐと私の後背を見つめ通り過ぎていった。豊かな白髪が
風になびき荒野を駆け抜ける様にも見えた。
その規則正しい足音と縁台の老人の低く重い声が通りを占めていた。
俺はどちらになるんだろう、ふと浮かぶ他愛無い想いが橙色に染まり
ゆっくりと行きすぎる真綿の雲の流れの中に浮かんだ」。

また、先日テレビで観た「三屋清左衛門残日録」で演じられていた昔の友との人生の
明暗はいまの時代の老いたるものの姿そのものでもあった。清左衛門の出世に
嫉妬しそれを己の不運として逃げようとするもの、息子の不手際に清左衛門の
力を借りようとするもの、若き時代同輩であったもののその後の悲哀は、
むしろ今の時代の方がより鮮烈なのかもしれない。感想の言葉にこんなのがあった。
「要領よく生きた清左衛門は出世頭で典型的な勝ち組。私は負け組なのにどうして
共感するのであろうか?藤沢周平の原作も読んだ。今のサラリーマンとちっとも
変わらない出世欲…。なのに親しみを感じる侍たちよ!」。
また残日録とは、「日残リテ昏ルルニ未ダ遠シ。黄昏(たそがれ)ではあるが、
日はまだまだ残っている」ほどの意味だという。
各々の残日はどうなるのか?結局は己自身なのか?

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