« 星をつなぎ、昔話を聞く子供たち | トップページ | 不思議な世界その2 »

2017.12.17

不可思議な世界

彼が彼らと初めて会ったのは、雑木林の中、もう少し具体的言うと、朽ちたクヌギのゴツゴツとした
木肌の上に見たピンク色が鮮やかな楕円形の卵と思われるものだった。それが、灰色に変わりつつ
ある粗い表層をピンク色に変貌させていた。よく見れば、それらの近くには、薄紫の小さな粒子が
お互いを寄せ合うような姿形でびっしりとへばりつくように幹の半分を支配していた。
「粘菌」との出会いだ。

キノコ状、網目状、昆虫の卵状、蜂の巣状、その形はまさに千差万別であり、その色も赤、黄色、
紫、白色等多様な彩で見ているだけでも楽しさが増す。
それ以来、彼の姿を雑木林や花壇、公園で見かけることが多くなった。
たしかにお望みのものはあたらこちらにいた。-木の上、-落ち葉の上や裏、-薮の下の腐植樹皮の裏 、
樹皮を剥がした内皮の上などその小さな自分たちの世界を守っていた。

ある朝、わたしが目を覚ますとそこには不可思議な世界が拡がっていた。
朽ちた大きなクヌギが幹に黒々とした大きな穴を作り、暗黒の世界が目の前にぽっかりと口を開けて
私を招き入れようとしている。そんな様が手に取れた。私はそのまま、その穴に足を入れたが、
すぐにやめた。誰か意地の悪いのが、私の行動を試しているように思った。上を見上げれば、
遥か上、天空と呼びそうな空が青白く見える。周りのクヌギの若い木や杉の綺麗に並び立った木々
が一直線に上へと伸び、それがその青い空に丸い空間を形作っていた。

数歩後ずさりをして振り返れば、積み重なった枯葉の間に白い毛先が無数にある球形の綿毛に
似たものが見える。さらに、小片の幹の木皮が枯葉と乾いた土を覆う様に無数な散らばりを見せ、
そのどの木片からも明太子をごく小さくしたような人肌色の楕円球状のモノが直立に立ち並んでいる。
よくよくそれを見れば、昨夜私がその色艶や形に興味をもった「コウツボホコリ」という粘菌の一種
であることが分かった。粘菌もその種類は多様で、木の上にいるもの、死んだ昆虫などの身体に
生息するもの、じめじめした湿気の多い場所で育つものなどが炒ろと聞いた。
今のここには、枯葉など腐敗させ、成長していく粘菌たちの住家直であろう。小さな赤松の倒木の
上には黄色のムシホコリが網目をかけたように倒木を包み込んでいる。

一瞬それが、ピクリと動き網全体が拡がったように見えたが、多分、それは錯覚であろう。
彼らは一日に数ミリしか動かないのだから。すでに茶褐色と白く浮き出たまだら模様の枯葉を
くぐったり飛び乗ったりして先へと進む。なめこのようなヒョウタンケホコリの群生が木漏れ日の中
に茶色の艶のある姿を見せているが、周囲にはねばねの汁がしみ出し、歩くのは少し難しそうなので、
回り道をする。しかし、粘菌はこの地表の凡てにあるようで、特に小さなキノコ状のウルワシモジホコリ、
コシアカモジホコリ、キノウエモジホコリ、チョウチンホコリ、クモノスホコリ、ムラサキアミホコリなど
が行く手を阻むかのように林立している。色は概ね白系統が多いが、中にはウルワシモジホコリ
のように紫色が強い印象的なものもある。

空気の流れを感じた。人が感じるほどの強さはないが、わたしの身体を撫で、かびた匂い、
甘酸っぱい匂い、それらが入り混じった何とも形容しようのないものがすり抜けていく。
足元に小さな無数の影が私を抜き去って行く。それは朝霧の極めて小さな粒子に見えたが、
水滴のような透明さは持っておらず、あるところでは濃密な膜となって周囲を閉じ込め、別な場所では、
薄く拡散した粒子が荒く漂い、木綿の生地の様となって若い細木を包み込んでいる。
その変わり身の早さは尋常でなく、一刻も休むことなく、私の上に降り注いだかと思うと、
あっという間に吹き上がり木立の間を巧みに抜けながら蒼く光る中天の彼方へと消えた。
掌に残ったのは、柔らかな膜におおわれた円筒形のような灰色の胞子であった。

よく見れば、足元やすでに黒褐色となった枯葉の上に数層の厚みとなっている。
周囲は、灰色と褐色の土、枯葉の黒い色がまだら模様を作り出していた。だが、その模様も
時を経るに連れて、灰色のベールがその広がりを急速に強めている。だが、そのベールも
すぐに動き始め、表面が崩れ始め、ベールの破れたところから糸状のひげがまっすぐに
伸びていく。その速さは植物の若芽の伸長に似て見ていても気持ちの良いものだ。
黒い染みのような無様なところからゆらりゆらりと白く光る糸が暗さの増した林の中わずかの
光を拾いその存在を誇示するかのように伸びる。私はその不思議な美しさに思わず見とれていた。
新しい命?の誕生ななのでろうか。しかし、学者は粘菌は生物ではないという。単なる物質が
集まったシステムなのだ。

« 星をつなぎ、昔話を聞く子供たち | トップページ | 不思議な世界その2 »

人生」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/79186/66168908

この記事へのトラックバック一覧です: 不可思議な世界:

« 星をつなぎ、昔話を聞く子供たち | トップページ | 不思議な世界その2 »

最近のトラックバック

2018年10月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      
無料ブログはココログ