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2017.12.04

星をつなぎ、昔話を聞く子供たち

雨雷の娘星は薬草を見たてる力が父親を優るほどであったが、やはり夢多き少女でもあった。
仲の良い香住や太郎に彼女が作った話を聞かせた。
「あの空にも流れがあってね。昼間はお日様の光が強くて見えないけど、その力が弱くなる夜
になると、小さな砂の粒のような星たちが動いているのがよく見えるんだ。空は幾重もの星の
小川や大きな川が
里の畑に流れる湧き水の流れのように交叉したり、太い流れに
混ざったりしながらやがて滝になって空の端から新しい世界に降り注いでいるんだ。時には、
劔の御山にも降り注ぎ大山積神の喉も潤をしているんだよ
たまに幾つもの小さな光が空を流れるのは、その滝から落ちる星の雫なんだ」。
「でも、あの赤い光や青白く光る星はほとんど動いていないけど」
「あの星は特別なんだ。大昔、大きな鷲がいて、他のどんな鳥よりも高く速く飛べたんだが、
ある時仲間に言われた。お前がそれほど自慢するのなら、あの大きく輝く星まで行けるのか」
と言われた。皆からそれを言われて彼もすぐさま夜空へと飛び立った。途中、強い雨に襲われ、
先が見えなくなるほどの雲を通り抜け、すでに彼はただ1人、暗闇を飛んだ。彼にとっては
今飛んでいるのか、地上へと落ちていくのかさえ分からんほどのところにいたが、やがて翼
の先が燃え立つような赤色に変わり、それが体全体を覆ったんだ。
今でも、彼は赤く光ってあそこにいるんだ。少し先に光る青白く光っているのは、彼のため
にある星の池なんだ。小川や大河から漏れた星たちがあそこに集まり、小さな池となって
地上を照らしているんだ」
「でも、なぜ、星の色が色々とあるの。あれは黄色だし、こっちのは白いよ」
星は少し戸惑った。自分でも日頃感じていたことでもあったから。
「それはな、小川を流れ弾かれる水滴と同じことだ。勢いよく水から飛び出した雫は
虹色に輝いているだろう。あれと同じだよ。ある時は黄色が強く、時折、蒼く光るだろう」
いつの間にか雨雷が空を見上げながら立っていた。
「そうか、それで色が違うのか」坊主頭の子が納得したように言った。

少し外れた子供たちの輪には東雲のお婆が昔よく聞いた「ういすの里」の昔話を
はるか昔の自分を思い出すかのように8人ほどの子供に話をしている。
「むかし村人が山で迷ったと。こっちが里への道かと思ってずんずん行くと、さっき
見たところへまたもどってしまう。そんならこっちかと別の道へ行っても、やっぱり
同じところへもどってしまう。そうやって同じところをぐるぐるまわっていたら、
やがて立派な御殿の前にたどりついたんだと。
こんな山奥に一体どなたが住んでおるんかのう。まさか魔性ものじゃなかろうか。
男はおっかない気持ちになったけど、帰る道もわからずもう日も暮れた。せめて一晩
でも泊めてもらおうと、戸口で「こんばんは。どなたかおられますか」と声を
かけたんだと。すると中から美しい娘があらわれて、
「まあ、道に迷われたのですか。それはお困りでしょう。ささ、中へお入りなさい」
って、親切にむかえてくれて、お菓子だのお餅だの、みたこともないような御馳走でもてなして
くれるんだと。
次の日、男がお礼をいって帰ろうとすると、娘が言うんだと。「もう一日ここにいてくださいませぬか。わたしはこれから用足しに出ますが、留守番をしていてほしいのです。
むずかしいことはありません。ただ遊んでいてくれればいいのですから。でも奥の座敷にある箪笥(たんす)だけは開けないでください」
娘はそう言って、どこかへ出かけてしまったんだと。
ひとり取り残された男は、最初のうちはおとなしくしておったが、見るなと言われると
どうしても見たくなって箪笥のある奥の座敷へ行ってみたんだと。
そこには桐の箪笥がひと竿あってな。引き出しが十二もある立派な箪笥だったんだと。
男は我慢できなくなって一番上の引き出しから、そうっと開けてみたんだと。
すると、引き出しの中には小指ほどの背丈の人がたくさん住んでいて、ちょうど正月のお祝いを
しているんだと。松飾りをして、鏡餅を飾って、子供たちは外で凧揚げやコマ回しをして遊んでいる。
二番目の引き出しをあけてみると、中にはやっぱり小さな人が住んでいて、ちょうど節分の
豆まきをしているんだと。
三番目はおひなさま。
四番目は桜の季節で、小さなお釈迦様に甘茶をかけて花祭りの祝いをしているんだと。
五番目は端午の節句。みんなで粽(ちまき)を食べている。
六番目は小さい人たちが総出で田植えをしておったと。
七番目は七夕さま。
八番目はお盆でお墓参り。
九番目はお月見。
十番目はみんなで稲刈りをしてる。
十一番目は七五三で、子供たちが晴れ着をきてお参りしてるんだと。
十二番目は大晦日で、みんなして家の掃除をしてるんだと。
その時、ホーホケキョとうぐいすの鳴く声がして、はっと我にかえってみると、
箪笥もお座敷も、立派な御殿もすっかり消えて、山の中にぽつんと取り残されて
いたんだとさ」
「その男って誰だったのさ」
「それは、な、わしの旦那や。わは、ははは」
東雲のお婆はその皺だらけの顔を一層皺だらけにして1人悦んでいる。
星もまた見えない天の川の流れに乗り、川下へと流れ下る自分を想像していた。
流れの先には橙色や真っ青な青色、更には白く光る川面が彼女の眼の間で
躍っている。その躍る光の間には十字の光を周囲に放っている大きな星が川を二分している。
果てしない暗闇に2筋となった天の川はさらに勢いを増して彼女をどこか遠くへと
連れて行くようでもあった。

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