« 不可思議な世界 | トップページ | 不思議な世界その3 »

2017.12.23

不思議な世界その2

そんな私の思惑とは別に目の前に出現したアメーバはすごい勢いで接合し、更に核分裂を起こし、
徐々にその姿を整えていった。糸状の変形体がまた隣の変形体に絡みつき、大きな糸状の
塊になっていく。その横では、それらが小さな頭を持つ子ダコの姿形に変身を始めていた。
あるものは黄色の光を帯びて朽木のの周りを徐々に黄色へと変身させている。私の足元では、
子ダコがさらに寄り集まって積み重なりあいながら白い球形となっていく。
これは多分、マンジュウドロホコリという粘菌だ。

斜めに射しこんでくる光を追うかのように日に映えたその輪には、茶色に細かく切り刻まれた
上に白い滴が点滅する花園が出来ていた。クビナガホコリというそうだが、確かにそうだ。
思わずそれに手を差し伸べると微妙な震えを見せた。生物ではないはずだが、その仕草は
無垢の少女の趣を持っている。スポットライトを浴びてその光の強さと自身の裸身を
さらしているという恥辱の想いが私の心を痛める。それは生物、無生物を超えた感情でもあった。
視覚対象の如何に関わらず、私自身が過去に感じた、例えば恋人の姿であったり、想いを
寄せていた人の無理強いな姿態への哀切な、想いでもあった。

この世界に入り込んで数か月、身体に変調を感じ始めていた。時間の感覚が徐々に長く
なっていく。もっとも、時間間隔は今のような分刻みの社会的な動きに適合するために作られた
ものであり、絶対的な時間は存在しない。ある人の一刻と他の人の一刻は同じではない。
時間はその個体が持つ独自の行動の早さであるとともに、相対的な社会的なつながりの
手段でもある。
私の前では、ヤリミダレホコリが褐色の太い糸を何重にも重ねながら徐々に下へと
伸ばしている。それはちょうど蕎麦をゆで上げざるに入れる様にも似ている。
やがて彼らは地上に辿りつくと次の植生する樹々へと向かい始めた。既に目の前は、
褐色のカーテンが数メートルにわたって、私の歩む先を拒むかのように覆っている。
触ってみるとその先端がぽとりと落ちた。意外とやわな奴と思ったが、その切れ端は
地面をミミズのように這い初めやがて小さな枝にまとわりついた。
その生命力、根性は確かなようだ。わずかな空気の流れが頬をかすめていく。
その微妙な動きに合すように青い球状に白い脚が一本あるタマジクホコリは地を這うような形
でゆっくりと流れすぎる。ふわりと浮き上がったままで球状の頭を少し前かがみにして
小さな流れを起こしている。

ふと、彼らはモノなのだろうか、私の知らない手段で生きている何かの生物なのであろうか、
大いなる疑問がわいてくる。生きたシステムでは様々な機能を発揮し、取り巻く環境を
センシングして、情報を処理し、移動したり、エネルギーを代謝したり、生殖したり、恒常性
を維持したり、身体を形作り感染症にに防御していくはずだ。
また、粘菌は様々な化学物質に反応するという。これは「味覚」を持っているともいえる。
さらには、臭覚、視覚、触角などの機能も持つ。まるでこの地を天上から見下ろし、
支配しているような巨大な欅の木があった。そしてその根元は金色のムシホコリが
何重もの枝分かれを起こしながら人間の神経体のような広がりを更に進めている。
彼らの拡散する速さは意外と早い。もし、彼らが私に興味を持ち、まとわりついたら、
思わず数歩後ろに下がって彼らの様子を見る。

粘菌の変形体は巨大なアメーバ様生物で入り組んだ形態や構造がそれほど発達
していないが、近くでその動く音、その吐く息、動く様を見ていると、「生きモノ」と「物
」との境目にいるというが、「生きモノ」としか思えない。

« 不可思議な世界 | トップページ | 不思議な世界その3 »

人生」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/79186/66191111

この記事へのトラックバック一覧です: 不思議な世界その2:

« 不可思議な世界 | トップページ | 不思議な世界その3 »

最近のトラックバック

2018年8月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31  
無料ブログはココログ