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2018年1月30日

2018.01.30

猫になった男その2

やがて一年が経った。
二人は女らしさと男らしさ(外見的ではあるが)を日増しに高め、彼の良き家族となっていた。
だが、ハナの愛らしさ、チャトの甘える姿は変わりなく続いていた。そして、彼はこの生活に
何か抜けているピースがあることに気が付き始めていた。
それはある冬の寒さが滲みる夜、彼の枕元に二人が近寄り、布団に潜り込もうとしている時に
気が付いた。2人の眼が彼の眼と並び合わさり、一心同体の気持ちとなったのだ。
「俺は今まで、人間の目線で彼らと生活していた。多くの場合は、上から見下ろすか、抱き上げて
人形のように愛撫するかの態度であった。パートナーの意識や思いはあるものの、そこには
無意識な上下関係が存在していた。この不足のピースを埋めるには、彼が猫になる必要があった。

想いは日々募るばかりであったが、変わらぬ生活が続いていた。チャトは相も変わらず喧嘩に
負け続け、ハナはそのちび上がる距離を一メートル以上も伸ばしていた。
それは、彼が会社の付き合いで深酒をし、そのまま布団に寝入ってしまった寄ることであった。
満月の光が部屋にくまなく行きわたり、その明るさと喉の乾きでふと目覚めた。
だが、起きようとしたが、どうも体の様子が違った。布団が大きく彼にかぶさり、枕が数倍に大きく
見えた。手を見れば、毛深い先に白く輝く爪があった。私は狂喜した。私は猫になった。
のそりと立ち上がると机や家具が壁のように彼の目の前にそそり立っている。後ろ足を揃えて
飛ぶとふわりと身体が浮き上がり、机に軽々と乗れた。不思議な感じが体を突き抜け、
私に新たな狂気をもたらした。机には、キーボードと大きな画面のパソコンが私の目の前で光りを
放っている。
寒いが軽やかな空気が体中にまとわりつき,よく見ればやや光沢を失った茶色の
毛が私を覆っている。ドアをそっと開ける。階段の夜灯が薄暗くともり、下からは何やらゴソゴソ
とした音が微かに聞こえてくる。埃の匂いのする日本間の部屋から四つの青みがかった目が
のそりと出てくる。チャトとハナがこちらをうかがうように立っていた。二人は警戒しながら近寄り、
鼻をうごめかして嗅ぎ寄ってから、お互い敵意のない事を確かめる。チャトは私であることに気付いた
ようであるが、ハナは不思議そうな顔をしてまだ私に見入っていた。四本の足で歩く事に
慣れていない私は、用心深く階段を降りて、リビングに行く。窓からは、満月の光りが射しこみ、
煌々とした青白い光りがフロアーに黒い影を長く隣の仏壇のある部屋まで伸ばしている。
テーブル、テレビ、椅子全てが昼間見ている情景とは違う。凡ての物がが息づいているかのように
私を取り巻いている。「進撃の巨人」の世界だ、訳もわからない考えが噴出し一瞬のたじろぎを覚えた。
夜行時計の緑の針、電話機の白い表示、電子型のカレンダー、机の上に置かれたスマホの青い
画面、様々な光りが様々な色を発して、部屋を彩っていた。
そして、それらがすべて私の上でその電子の色を点滅させており、全てが私に覆いかぶさるように
存在している。これが猫たちの見ている景色なんだ、変な感動を覚え、しばし暗闇の中で立ちつくす。

横にいつの間にか、チャトとハナが立っていた。ハナも私であることが分かったのか、納得顔で、
私を少し開いている窓辺に誘い、外へ行こうとしている。
試しに窓辺まで飛んでみるが、一瞬のうちに、二メートルほどの高さを飛んだ、のだ。
このぶよぶよの身体が空中を舞い、軽業師の如く私は窓辺へ導かれた。
ハナとチャト、と私は満月の光の中、我が家の蒼白く光る庭を通り、柵の間を抜け、隣の家へと
細く長い影を道路に残しながら歩いている。普段、見慣れたさくらんぼの樹が大きな怪物の
ごとく立ちはだかり、静かに流れる風に合わせ、葉の群れがざわめき返す。多くの家は暗闇に
包まれているが、所々で、灯りがともり、さざなみのような音が聞こえてくる。
三人とも、無言でひたすら家々をめぐり、道路を横切り、やがて街の外れにある森に入る。
かさかさという落ち葉の音に合わせ、三人の歩調は一つのリズムとなって木々に吸い込まれていく。
庭、道路、山道、それぞれの感触が素足になった私に気持ちよさを伝えてくる。
先ほどから気になっている口の周りの長い鬚が今までにない感触となって触る草や樹の肌、葉にある
露のそれぞれの波動を伝え、森の息づかいが身体に染み込んでくる。
やがて、ぽっかりと空いた木々の隙間とそこに差し込む月の光りの中に、十数人ほどの猫たちがいた。

チャトが一言、
「今日は猫族の集会ですねん」
私は内心驚いた。チャトや他の猫たちの言葉が分かるのだ。皆のささやきが寄せる高波の
ごとく一挙に私を包み込んでいく。その中で私は言い知れぬ喜びを感じていた。
年老いた猫が一堂を見渡して、何やら喋り始めた。チャトが彼は仙人猫と言って大昔から生きて来た
猫だという。私は一番後ろでこの集会を静かに見守る。
今日は、昨日わしが見た、アノ絵と音の出るテレビと言う箱の話を少ししようか。わしがテレビの
前で寝ていると、そこの夫婦は、結構単純タイプでな、二人とも一緒に、
「凄いなー」「良くやるね!」「賢いねーーー」
と騒いでいるんで、ちと面白うて、同じようにテレビを見たんや、実は、、、、
その話は、他の国のことなんやけど、
「三歳ぐらいの子供が、突然、近くの犬に足をかまれ、倒されている」
「犬は、なおも、しつこく子供の足をかんだまま、引きずろうとしていた」
「そこへ、突然、黒い物体が犬に体当たり」
「その黒い物体は、その子供の飼い猫」
「犬はその猫に、反撃しようとするが、息もつかせぬ猫の攻撃でタジログ」
「やがて、犬は逃げ出すのだが、それを猫は追いかける」
その夫婦は、この画面を見て感激ひとしおや。わしも口を開けたままテレビに釘付けとなってしもうた。
集まった猫たちからは、へー、ホー等感歎の声しきり。
「そいつ、頑張たんやね、えらいおすな」
「私なんか、人や犬が来たら、今でも、足が動かなくなるんや凄いわ」
「私は平和主義ですんで、こんな事せえへんわ」
「俺は、もう脚も動かんし、歳やし、ただ見てるだけやな、お前は少し主人にいい所を見せたらどうや」
長年の仇敵である犬がぼろかすにやられるという話は大いに受けている。
猫の世界も人間も変わらんな、と思う私がいた。
最近よく出てくる韓国と中国のお偉いさんが何かと日本に難癖をつけて国民を悦ばしているのと、
何ら変わる事はない。

朝の冷たさは、和らぎ暖かい日差しが庭を包み込みはじめている。
チャト、ハナはいつものごとく庭で昨夜の余韻を味わうかのようにその光の中にいた。
そして、指定席のリクラインの椅子とソファーに収まっている。
私は、テーブルでほろ苦い味のコーヒーの一杯を口にしている。朝の光がまぶしい。
コーヒーの苦さが口に広がりその味を味わっているが、まだ猫の世界にいる気分でもあった。
集会の興奮を抱えたまま、布団に潜り込んだが、翌朝そのしじまにふと我に返ると、
茶毛は消えて体は元に戻っていた。
あの一瞬の騒ぎも直ぐに収まり、猫たちはそれぞれの想いを持って、それぞれの家に帰って
行った。そして何事もなかったように、日が上り、夜の帳が落ちていく平凡な日々になる。
テレビでは、隣国の船の沈没や海上での威嚇騒ぎ、などなど、遠いが近い出来事を映し出している。
それらを平和と言う光がいつまで照らして行けるのか、まあ、猫族には関係ないかもしれないが、
と思わず口に出したが、チャトがしたり顔で私を見ていた。
「あんさんもまた猫になるかもしれへんで」、目がそう言っている。私はそれもまた楽しみだな
と目で返した。「草枕」の初めの一節が想い起こされた。
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は
住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと
悟った時、詩が生れて、画が出来る。人の世を作ったものは神でもなければ鬼でもない。
やはり向う三軒両隣にちらちらするただの人である。ただの人が作った人の世が住みにくい
からとて、越す国はあるまい。あれば人でなしの国へ行くばかりだ。
人でなしの国は人の世よりもなお住みにくかろう。、、、、、、、、、、。」

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