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2018.01.04

不思議な世界その3

しかし、目の前で起きていることを見た途端、その考えに疑問を持たざるを得なかった。
石灰化した骨が見えた。頭蓋骨の大きさから考えると鼠のようだ。でも、今の私には
象ほどの大きさに見える。その白く映えた塊に微妙な動きを見せる粘着のあるものが
蠢いている。単に自分たちを増殖させるだけでなく、動物の遺体を弔う菌もいると聞いた。
トムライカビは動物遺体の跡やその周辺の土壌にいる。彼らは、霊媒を受けた神の
担い手のような厳かな姿をしており、立ち上がった菌糸の先端が膨らみ、不規則に
空中で揺れ、時に白く輝く。その姿は、まるでその生き物の死を弔うかのように萌えたち
祈っているように見えた。しばし私は茫然とそこに立ったままだった。

その姿は神に祈りを捧げ、その魂を天に召すかのように僅かに射しこむ光に向かう。
思わず私も額ずき彼らの所作に合し、合掌した。少し暗闇が迫ってきた中を当てもなく
歩いていると、不可思議なものに出会った。そこには、同じような3つの菌筋が石の横、
枯葉の下、更には盛り上がった赤色の土に沿って奥へと伸びている。そのどれもが、
先へ先へと己が触手を伸ばすかのように動いていた。私は彼らが何を目指しているのか、
興味を持ちじっと次の行動を見守った。やがてまず、石を避けようと動いていた触手が
徐々にその動きを緩め止まってしまった。その間に、残りの2つは少し速度を速め
ながらさらに奥へと進んでいく。2つはまるで競争をするかのように互いを意識し、
その幹のような紫の管を赤地に這わせ、またまだら模様に変色しつつある葉の間を
縫うように伸ばしていくのだ。私は分かった、彼らの目指すものが少し先にある虫の
死骸であることを。

彼らがそれをどう見つけ、餌として見分けているのかは分からないが、2つがそこに行きつく
ための果敢なる努力をしていることがその動きの活発さでもわかった。
だが、競争の結果は明瞭であった。葉の下を縫うように進んでいた1筋は少しづつその
餌が遠のいていくのをしたのであろうか。これもまた徐々にその速度が落ちて、やがて
その動きを止めた。

不思議にも思える光景だ。まるで餌が見えるような動きと相手の行動の予測ができる
ような動きである。彼らには餌を見分ける能力とそれに早くいけるかの判断力があるの
だろうか。知性ある生物なのだろうか。更には、先ほどまで活動していた残りの2本の管
は急速にやせ細って消えてしまった。僅かに紫色の痕跡がその辿った跡に微かな粒子を
残しているだけだ。つまり彼らは餌への最短な道筋を見つけられるのだろう。
私はただ唖然と行きついた太い紫の管を見つめていた。そこでまた鼠の死骸をきれいな
白骨にしてくれるのであろう。

まわりは黒く沈み始めた。やがての夕刻となる。青く澄み透った空が地平線に近い所から
茜色に染まって青が茜の広がりに徐々に蝕まれていくとそれらの色が融け合い、薄墨
となってその変容を助長していく。私の周りも、透明な白く輝く世界が赤色の塗装で
塗り込められるかのように薄く輝く赤の世界から濃密な赤へと変わり行く。
そして、その赤い世界は彼らをも変身させていく。先ほどまでゆっくりと時を刻んでいた
紫の管や灰色の細管は急激な変化を見せはじめる。透き通った管を流れていた粒状物質は
その速度を一挙に早めていく。
それは人の急激な運動を起こした時の血液の流れにも似て、ドクンドクンという心臓の高まり
の音を聞くようでもあった。

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